彼氏は日本人。彼女はフランス人。

日本人とフランス人の国際カップルの記録

ゆりやんレトリィバァのAmerica’s Got Talentでのパフォーマンスと全訳と感想

日本のコメディエンヌ、ゆりやんレトリィバァ(28)。
彼女がアメリカのオーディション番組「America’s got Talent」(NBC)に出演した動画が番組のTwitterアカウントで公開され(6月12日)、日本で話題になっています。
youtu.be

(書き起こし全訳は記事最下部に置きます。)

日本での感想

過去にもAmerica’s Got Talentに出演した日本人パフォーマーはいたけれど、純粋にトークで観客を沸かせた人は出ていません。
その意味で、日本のお笑いの可能性を見た、とする感想があります。
news.yahoo.co.jp

同じ日本人として誇らしい気持ちにすらなる出演シーンでした。
〜略〜
今回のゆりやんさん出演の大反響から改めて感じるのは、やはり日本のお笑いも海外で通用する可能性が十分ある

けれど、このパフォーマンスから「日本のお笑いが世界に通用するかも!?」という風に考えるのは危ういというか、むしろ時代錯誤ではないかと感じる部分があったため、この記事を書いています。

ハラスメントでもあるジョーク

たしかに、モテそうにない女性が、自信満々に男性をホテルに誘ったりハグ強制を続けたりという逆セクハラを行うジョークは、日本のテレビバラエティで多くの女性芸人が培ってきた「日本のお笑い」だろうと私も思います。

でも、それがジョークとして成立しているのは、日本に強く残る男尊女卑と行き過ぎたルキズムが文化的背景としてあるからだと私は考えます。
今回のパフォーマンスで男女の性別を逆にしてみれば明らかです。
モテそうにない男性が、自信満々に女性をホテルに誘い、ハグを強制する。それが、果たしてジョークとして通用するでしょうか?

ハラスメントとジョークの境界は、いつも曖昧です。

America’s Got Talentでの反応としても、彼女のジョークで笑っていた審査員や観客もいたかもしれませんが、逆に、それに対して眉をひそめていた審査員や観客もいました。それは、動画を見れば明らかな事実です。

MeTooの発祥地であるアメリカも、それを後追いしている日本も、まだ男性から女性への性的差別が残っているからこそ、女性から男性へのセクハラが「男性権力に反逆する」という意味でジョークとして許容され、ハラスメントと受け取られずにすむ余地があるのだと思います。真の平等社会においては、彼女のセクハラジョークは単なるセクハラに過ぎません。

そのため、このような逆セクハラジョークが「世界に通用する・今後も広まっていく」と考えるのは、やっぱり変だと思うのです。
むしろ、近年の日本で発達してきたこのような逆セクハラジョークは、今後は根絶される方向に世界は進歩すべきだし、そうなっていくはずだと私は信じています。

もちろん、母語ではない言語で異なる文化の中で堂々とパフォーマンスを行い、少なくとも1人の審査員からは絶賛を受けたゆりあんさんは凄いと思うし、それを貶す意図は一切ありません。
また、日本の女性芸人が見出した現在のセクハラジョーク自体を貶めるつもりもありません。
どういうことか。

セクハラジョークの意味と時代的変遷

日本のテレビバラエティの中でも、「男性から女性へのセクハラ」「男性からLGBTQ+へのセクハラ」が明確に存在していた時代があります。
私が子どもだった1990年代。
とんねるず石橋貴明が、松嶋菜々子に性行為中の膣から発される空気音について発言させる
ダウンタウン浜田雅功が、YOUや篠原涼子に後ろから抱きついて腰を振り性行為を思わせるジェスチャーをする
志村けんが、バカ殿様の中で女性の裸を見る・触る
とんねるず石橋貴明が、保毛尾田保毛男というゲイへの偏見を利用し見下すキャラクターで人気となる
枚挙にいとまがないほど、日本のテレビは権力男性からのセクハラジョークに溢れていました。

2010年代、それらが徐々に減っていき、かわりに増えたのが「女性から男性へのセクハラ」「LGBTQ+から男性へのセクハラ」です。
・女性芸人(大久保佳代子森三中大島美幸、バービー、他多数)が男性芸人や男性芸能人の身体をさわる、抱きつく、キスする
・マツコデラックスが男性芸人や男性芸能人の身体をさわる、抱きつく、キスする

00年代、私はあまりテレビバラエティを見ていないので詳しく分かりませんが、おそらく次のような文脈でこの変化は起きているのだろうと考えます。

かつて男尊女卑が幅を利かせていた時代には、男性から女性へのセクハラがジョークとして流通していました。
けれど、権力のある男性側からのそれは「強者→弱者」への単なるハラスメントであるという側面が社会的コンセンサスを獲得していく中、衰退。
それに代わって、権力のないモテない女性・LGBTQ+側が行うセクハラは「弱者→強者」へのジョークとして受け取られる側面が大きく、隆盛。

ハラスメント度合いは、相手が拒否できない弱い立場にあることで強くなり、
ジョーク度合いは、相手が拒否できる強い立場にあることで強くなる。

そのため、女性・LGBTQ+側が行うセクハラジョークは、「男性という権力強者」に対する一種の異議申し立てとしての意味を持っていたのだろうと思いますし、その意味で多くの女性芸人やマツコデラックスらオネエタレントが行ってきたそれらを、各男性へのセクハラだったと安易に切り捨てるつもりはありません。

それは社会が平等になる過程で経る通過儀礼のような、必要悪のようなものだったと私は考えます。

けれど私は、それらはもう過去のものになるべきだと考えています。
そして、おそらく多くの女性芸人やマツコデラックスも、同じように考えているのではないかと私は思います。

すでにマツコデラックスは、男性へのセクハラジョークの頻度をかなり減らしてきているように思いますし、女性芸人も、そのセクハラジョークを例えば「ビジネスキス」のように呼称し、少しずつ距離を取ろうとしているように思います。

異議申し立ての告発としてセクハラジョークを利用する時代は、もう終わりにきています。
本当の意味での平等社会では、それは単なるハラスメントに過ぎないからです。

セクハラジョークはなくなった方が良いと私が考えるもう一つの理由

セクハラジョークはなくなった方が良い。
私がそう考えるのには、もう一つの理由があります。

セクハラジョークは、「された側が嫌がっている様子」を見て楽しむということに大きな特徴があります。
そのため、今回のゆりやんもそうですが、女性芸人やLGBTQ+のセクハラジョークを行う側が性的魅力に乏しい(とみなされる共通認識がある)ことが必須となっています。
もしサイモンをホテルに誘ったり抱きついたのがジュリアンのような美人であれば、それがジョークとして成立しづらいことを考えれば明らかです。

ここには、もう一つの無くすべき偏見である「ルキズム」が大きく横たわっていると私は考えます。

もちろん、現状はびこるルキズムでは弱者とされるブサイク・デブと称されることもあるようなゆりあんさんが、そのルキズムを利用して笑いに変えることでファンを獲得するという意味で、これもまた単純に否定すれば良いという種類のものではないとは思います。
それでも、テレビによる動画時代が始まってから、インターネットによる画像・動画の共有難易度の低下により更に「視覚優位」な世界になってきた中で、性的魅力をルックス(視覚)だけで推し量る価値観の隆盛が、このセクハラジョークがジョークとして成立してしまう背景にはあります。

そして、それをジョークとして成立させてしまうことこそが、そのルキズムを助長してしまう残念な結果を招いていると思っています。

私は、現在のルキズムの隆盛は、決して人類にとって良いものではないように思っています。

とはいえ繰り返しになりますが、私はこれらのパフォーマンスを行ったゆりやんさんを貶めるつもりはありません。
最後に、そのことについて詳しく補足します。

今回の笑いの取り方についての感想詳細

ゆりやんさんについては、全体的に「置かれたポジションへの見られ方を意識的に利用する」という意味でとてもクレバーな戦い方をしているように思いました。
パフォーマンス自体ではなく、その前後のトークが笑いにつながったシーン3つについて、説明します。

そのうち2つは、上記にも挙げた「ホテルに誘う・ハグを強制する」という部分です。
これは、パフォーマーと審査員という権力の上下関係があることが、女性から男性へという部分にプラスしてハラスメント度合いが弱まり、笑いやすい構造になっていました。そのため、ハラスメントだと受け取った人もそこまで多く出ずに済んだだろうと思います。

また、一番最初に彼女が笑いを取ったレトリィバァという芸名の由来が犬ではなく猫にある、という部分。

ゆりやん:はい、ゆりやんレトリィバァは私のステージネームです。
サイモン:どうやってそんな名前思いついたの?
ゆりやん:えっと、ペットを飼ってるんですが、レトリーバーって知ってます?
サイモン:もちろん。
ゆりやんゴールデンレトリーバー。それで私、ネコを飼ってるんです。
会場:(笑い)
ホーウィー:? ネコを飼ってるなら、レトリーバーとなんの関係があるの?
ゆりやん:ネコの名前がレトリーバーなんです。
審査員:オーウ
会場:(歓声)

ここについても、「レトリーバーって知ってます?」と当たり前のことを聞くことで、観客や審査員からすると「そのくらい当然知ってるけど、この日本人だいじょうぶかな?英語がうまく扱えないのだろうか?」という不安を少し植えつけたあとに、「それで私、ネコを飼ってるんです」と言うことで、「やっぱり変ねこの日本人、犬の間違いじゃないの?笑」というバカを見る目で笑われたあとに「ネコの名前がレトリーバーだ」とオチをつけることで、「なんだそういうことね、ちゃんと通じる話ができるじゃない、面白いわ」と評価を反転させることで歓声を得ています。
つまり、たどたどしい英語を話す日本人(外国人)であることを上手く利用しているのだと感じました。
もし彼女が流暢に話していたとしたら、ここではそんなにオチていなかっただろうと私は思います。

それも含めて、どのジョークも「外国人としての自分」「デブでブスな自分」「女性としての自分」という見られ方を意識的に利用したもので、その意味でとてもクレバーだと思ったのでした。
どの観点でも、彼女にとってアウェイな環境であることを逆用することに長けているのだと分かります。

次の記事にあるように、「あらかじめ通訳や現地の人と練習した」と話していることからも、それはうかがえます。

jisin.jp

なお、「ダンサーだ」と自己紹介することで、笑いのハードルを下げることが出来たからこそレトリーバーの件がよりウケたという側面はあるにせよ、そのせいで「ダンスの巧さ」を審査基準にした審査員もいただろうし、彼女の全部のパフォーマンスがジョークなのだと受け取るまでに時間がかかった観客や審査員もいただろうとは思います。

厳しい判断を下した審査員や観客が、ダンサーなのに変なことやってる痛い人だと思ったのか、それともジョークだと理解できた上でセクハラなりルキズムなりの問題のために笑えないわと思ったのか、動画だけでは判別不可能な部分はあるにせよ、正々堂々と「日本ではコメディエンヌをやっています」と自己紹介した方が良かったのではないかとは思います。
そうしていれば、もう少し全体が見やすくなったと思うからです。

とはいえ、言うはやすく行うは難し。
度胸と野心あふれるクレバーなパフォーマンスを行った彼女に、賞賛を惜しみません。

できることなら日本のテレビバラエティ(日本社会)が、彼女がセクハラ以外のジョークをより研鑽できる環境になっていくことを望みます。

動画出演部分

以下、全訳。
(見た人は飛ばして大丈夫です)

ホーウィー:今晩は。君の名前は?
ゆりやんゆりやんレトリィバァです。日本から来ました。
ホーウィー:ワオ、ならAmerica’s Got Talentに出るために飛んできたの?
ゆりやん:はい。
ホーウィー:日本ではどんな仕事をしてるの?
ゆりやんパフォーマーとダンサーです。
ホーウィー:それで日本で食べていけてるの?
ゆりやん:ちょっとだけ。
会場:(笑い)
ジュリアン:(不満気に)それがダンサーの人生よね
サイモン:ひとつ質問なんだけど、これは君のステージネーム?
ゆりやん:はい、ゆりやんレトリィバァは私のステージネームです。
サイモン:どうやってそんな名前思いついたの?
ゆりやん:えっと、ペットを飼ってるんですが、レトリーバーって知ってます?
サイモン:もちろん。
ゆりやんゴールデンレトリーバー。それで私、ネコを飼ってるんです。
会場:(笑い)
ホーウィー:? ネコを飼ってるなら、レトリーバーとなんの関係があるの?
ゆりやん:ネコの名前がレトリーバーなんです。
審査員:オーウ
会場:(歓声)
ホーウィー:ぼくらの知ってる人で、君をたとえるとすれば誰に似てる?
ゆりやん:私には尊敬してる人が世界で3人だけいるんです。
審査員:うん
ゆりやん:私のママ、パパ。 
サイモン:そして…?(自分の名前を挙げると思って笑顔で促す)
ゆりやん:そして。ジュリアン。
会場:(歓声)
ジュリアン:ワー!
サイモン:(ブザーNOボタンを押す)
会場:(笑い)
ゆりやん:オー!サイモンごめんなさい!笑
ジュリアン:私はあなたのスタイル好きだし、良いテイストよ。
ゆりやん:ありがとう
サイモン:間違って押しちゃったんだ。頑張って。
ゆりやん:ありがとう、どうも

ゆりやんのパフォーマンスが始まる〜
ゆりやん:(おもむろに後ろを向き、少し振り返って会場をセクシーな目で一瞥したあと、ズボンを脱いで下半身を露出させる)
会場:(悲鳴・歓声・笑い)
ゆりやん:(パーカーも脱ぎ、前に出てアメリカ国旗をあしらった衣装を見せる)
会場:(歓声・笑い)
ゆりやん:(ポーズをとる)
〜BGMが鳴り始める〜
ゆりやん:(ダンスを始める)
ゆりやん:(珍妙なダンスをしながら、休符に合わせて鼻息させて力むポーズをとる)
会場:(大笑いする男性客、顔をしかめる女性客、などが映される)
サイモン:(NOブザーボタンを押す)
ジュリアン:(NOブザーボタンを押す)
ゆりやんのパフォーマンスが終わる〜

サイモン:一体あれはなんだったんだ!?
ホーウィー:ジュアリアン、君はブザーを押したね。彼女のダンス全てが君にインスパイアされていたにも関わらず。
ジュリアン:私の責任ね。 
サイモン:世界への君からのギフトだぞ。
りあん:ジュリアン、あなたのようになりたいんです。なのにあなたはブザーを押した、ブザーを。 
ジュリアン:私は振り付けをすぐに覚えちゃったから、もうちょっと観ていたいんだけど…もういいわ。 
りあん:(残念そうに)あ〜
サイモン:あれはボクたちでもやれると言ってもいいと思うんだけど。 
りあん:そんなことないです。 
ホーウィー:サイモン、君も同じ髪型だよね。
サイモン:ありがとう、ホーウィー。
りあん:サイモンお願い、あなたはとてもキュートよ。 
サイモン:今さら機嫌をとっても手遅れだよ。 
りあん:お願いサイモン。 
サイモン:なら友達になろう。 
りあん:あぁ、OK…、えっと…、シェラトンホテル、3、1、2… 
会場:(歓声・笑い)
サイモン:OK、OK、ガブリエル、頼む。 
ガブリエル:あなたの両面テープがなんなのか知りたいわ、だって…とれちゃいそうでしょ! 
ホーウィー:投票を始めよう、まずはぼくから。ぼくはすごく気に入っただよ、YES! 
ガブリエル:レトリィバァごめんなさい、私はNOよ。 
りあん:なんでー、理由が分からないわ。 
ジュアリアン:OK、私ね、私は楽し、
ホーウィー:YESだってさ! 
ジュアリアン:違う違う違う。 
ホーウィー:YESだって!これでYESが2票、サイモンは? 
サイモン:ボクにはやってもいいなってことがあるんだ。君のダンスレッスン代をボクがジュリアンに払ってもいい。 
ジュリアン:喜んでやるわよ。 
りあん:ほんとですか? 
サイモン:でもNOだから、お疲れ、バイバイ。 
りあん:ごめんなさい、なんでNOって言うのか分からないわ。OK、そっち行かせて。
りあん:(ステージを降りて審査員席の前に移動して)
りあん:OK、じゃあ、教えて。なんでNOって言うの? 
りあん:(ゴールデンブザーボタンを肘で押しながら)教えて。
観客:ワー
りあん:(ボタンが効かないようなので)あら!?
サイモン:残念だけどゴールデンブザーは効かないよ。 
りあん:オー。
観客:(笑い)
テリー:他の候補者の時間だ。 
りあん:OK、バーイ。

このあと、観客のいるオーディション会場から控え室に場面は移り、サイモンが要求したジュリアンに対するゆりあんのダンスレッスンの模様が映し出されます。
ひと通りジュリアンへのレッスンが終わったあと、各審査員とハグしていくゆりあんですが、サイモンとのハグを一向に終えようとしません。
「ぼくたち、もう行かなきゃ。みんな、行こう」とホーウィー。
りあんに抱きつかれたまま取り残されるサイモンが「いますぐ止めろ」と言う姿に、「いまや彼女はボーイフレンド持ちだね」と投げかけて去り行くホーウィー。「ありがとう」とサイモンに抱きつき続けるゆりあんを映して彼女の出演シーンは締めくくられます。

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