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フランス女性と同棲中

ナンパしたフランス人と同棲する高卒ニートの整理と極論

彼女の母に言われた一言/ニートのフランス滞在記⑤

フランスに住む彼女の母親パスカリーヌと、一対一で交わした会話。パスカリーヌにとっては、娘の彼氏がよく分からない高卒ニートの日本人であるという状況だ。その中で聞いた一言を、僕はとても強く覚えている。今回はその話。

彼女の母の家、久しぶりのコトバ

パリ都心から南西に約30km、そこにマリーヌの母と弟が暮らす町シュブルーズがある。家族思いの彼女は、半年ぶりの家族との再会を心から喜んでいた。少し年の離れた弟ピエールが可愛くて仕方ないのか、大量のおもちゃやお菓子を買って来ていた。マリオやポケモンなど「ニンテンドー」のキャラクターを模したグッズや、日本の100円ショップで見つけたスシやラーメンの形をした消しゴムなど、楽しそうに紹介しながら渡していく。もちろん弟以外の家族全員分のお土産も買っている。今回はひよこ饅頭だ。

「このひよこ饅頭は、コウモリと私、2人からのお土産ね」
そう言ってマリーヌは、母パスカリーヌと弟ピエールに食べてみるよう促す。思春期に差し掛かったとは思えないくらいあどけない好奇心にあふれたピエールが、さっそく味見してみる。

変な顔。

どうやら口に合わなかったようだ。明るくひょうきんな彼が、たくさんの冗談を言う。マリーヌとパスカリーヌが笑う。言葉は分からないけれど、僕も笑う。
「なに言ってるか分かんないけどおもしろいw」
笑いは伝染するのだ。

マリーヌも負けじとジョークをまくしたてる。弟と母が笑う。弟は更にカブセていく。
「分からないジョークが続いて飽きてきたから、誰か説明してくれないかなー」
少しだけそう思いながら、僕は愛想笑いに徹する。

しかし、久しぶりの再会にはしゃいでいるこのコ達は止まらない。姉弟だけに留まらず、パスカリーヌもジョークを挟む。これまでスカイプで会話したときには、パスカリーヌは僕に気を遣って姉弟のジョークを英訳してくれていたのだが、今は半年ぶりの再会で、この家族のテンションは最高潮なのだ。僕は邪魔しないよう、ひっそりとした愛想笑いを浮かべ、場が落ち着くのを待つ。ニートの僕が日本から持ってきたお土産は、ひよこ饅頭以外にはこの愛想笑いしかないのだから。

ようやくひと段落着いたのか、マリーヌが僕に説明してくれる。
「美味しくなかったみたい(笑)」
そんなことは分かっている! けれど、ジョークの説明ほど難しく無意味なものはない。だから僕も深くは聞かないし聞くつもりもない。とりあえず、みんな楽しそうで良かったね。そういう場面に居合わせることが出来ただけで、僕としても嬉しい。その気持ちを一言で伝える。
「それは見てて分かったよ!(笑) 久しぶりに会えて良かったね」
「うん、家族に会えてすごく嬉しい!」
そうして手持ち無沙汰の僕に気を利かせて、彼女が言う。
「インターネット見てていいよ」
「いいの?」
「うん、ひとまず落ち着いたから、好きにしててね」

インターネット、知らないヒトのコトバ

フランスに到着する前日、成田を発った1/7。その日、僕の書いた記事が初めてバズった。たくさんの人に記事を読んでもらい、たくさんのコメントをもらえた。そうして、記事についてのコトバの数々がアタマの中で反響する中、僕はフランス行きの飛行機に乗っていた。(参考:滞在記①の余談)

あのあと一体、どうなっただろう? 他にどういうコメントをもらったか、すごく気になる。それに、あの記事で修正しなきゃいけないところがたくさんあるし、どうしよう?

彼女も僕の記事の成り行きを気にしてくれていて、パリの空港に着いたときにもノートパソコンを開いてブックマークコメントを確認しては「たくさん読んでもらえて良かったね、またコメント付いてるよ」と教えてくれていた。

以前は他人からコトバをもらう機会も多かったのだけれど、ニートになってからというもの彼女以外の誰からも何も言われない日々を過ごしていた僕にとって、自分の記事に対するコトバの数々は、一つ一つが輝いて見えた。

しかも、僕はインターネット歴が極めて浅い。だから、知らない誰かから自分や自分の記事に向けてコトバを発されるという状況には全然慣れていない。顔も見えず、履歴も知らないヒトのコトバをどう解釈していいのだろう? それが分からず、飛行機の中でもずっと、アタマの中でコトバがぱちぱちと弾け飛んでいた。

フランスに着いてひと段落したあと、彼女の許可が出てからすぐに、僕はインターネットの世界に入り込んだ。ひとまず記事にもらったコメントを確認しながら記事を修正した。でも、このコメントをくれたヒトはどういうヒトだろう? そのヒトが見た他の記事や他のコメントを眺めて、一日が終わる。それでも、もらったコメントがあまりにも多いせいで、きちんと解釈できていないものはたくさんあって、まだアタマの中で幾つものコトバがぱちぱちしていた。また眠れない。慣れない場所に来たせいでもある。時差ボケのせいでもある。天気が悪いせいでもある。フランスに来てからずっと曇天で、一度も太陽を見ていない。

そうしてフランスに来て2~3日、僕はほとんど寝ることもできず頭の中でコトバが反響しつづけるという、かなりグロッキーな状態で過ごしていた。フランス語が分からないせいもあるけれど、ときどき英語で質問してくれるパスカリーヌに対しても返事をせずにぼうっとしていることがあって、皆からすごく心配されていた。
「コウモリ君、大丈夫?」
「大丈夫、ありがとう」
そう答えはするものの、僕の目はずっと虚ろだったと思う。僕のココロはずっと、知らないヒトの日本語が飛び交うインターネットの世界を浮遊していた。フランス語や英語が飛び交うリアルの世界に対しては、どこかに膜が張ってあるようにも感じていたのだ。

車の中、パスカリーヌのコトバ

そんな僕の状況を気遣ってくれたのか、週末、パスカリーヌがドライブに誘ってくれた。
パスカリーヌとは何度もスカイプで話したことがあるし、2012年の夏にピエールと共に来日したときに対面で話したこともあるのだけれど、一対一で話す機会はこれが初めてだった。

車の中で彼女は、シュブルーズに越してきた理由や、マリーヌが通っていた高校や、ピエールの通う予定の高校について話し、彼女自身の大学での専攻や現在の仕事などについて教えてくれた。

パスカリーヌは理系の名門大学に通っていたらしく、現在はテレビ局でデータ変換の仕事をしているという。そして彼女の兄はフランス軍の関連施設で暗号技術を研究する科学者で、彼女の姉は医者なのだという。なるほど、理系の超エリート家族だ。

「マリーヌが通っていた高校も理系の名門だったの」
「そうだったんですね」
「フランスでも指折りの有名な科学者が先生をしてくれていたのよ」
「良いですね。ただ残念なのは…マリーヌが数学嫌いだったことですね(笑)」
「そうなの(笑) なぜかマリーヌは数学が苦手なのよね、残念」
「でも、そのぶん彼女は言語が得意だから、良いと思いますよ」
「そうよね」
「4か国語を話せて、発音も美しい。とても羨ましいです」
「それにとっても良い子よ、優しいの」
「はい、僕もそう思います。そして美しい」
「あなたはラッキーね(笑)」
「はい、僕もそう思います(笑)」

ちなみに高卒である僕の英語力は悲惨なものなので、上記は雰囲気で翻訳している。というかパスカリーヌが英語で何と言っていたかすら、一言を除いては全く覚えていないのだ。そして僕の返答の90%以上は「I see.」「Yes, I think so, too.」だ。会話の中で、彼女の科学に対する深い愛情を示すテーマが幾つかあった気がするのだけれど、専門用語が分からないので覚えていないくらいである。パスカリーヌは科学を愛している、それだけは何とか理解できていた。

「いろいろ話せて良かったです。最近はとても疲れていて」
「あなたのブログのことでしょう? たくさん読んでもらえて良かったじゃない」

パスカリーヌは最近、勤め先のテレビ局で「ブログメディアについての研修」に参加させられることになったのだという。それで僕も、まだ始めて間もないながらも面白いデータが採れたという話を交わしていた。話したのは、『面白さと分かりやすさの比較グラフ』という記事の内容だ。この話には、パスカリーヌもとても興味を持って聞いてくれていた。

そしてフランスに来る前日に公開した『はてなブックマークとはてな村のまとめ』という記事がたくさんのヒトに読んでもらえて、それをきっかけに、僕は自分の記事に向けられた色んなヒトのコトバを見ることができた。それはとてもありがたいことである反面、慣れない僕からたくさんのエネルギーを奪っている、という話もしていた。

「はい、読んでもらえたことは嬉しいんです。でも…」
「あなたの考えに賛成しないヒトもいるのね?」
「そうですね」
「それは仕方ないわ。どんな意見でも、賛成と反対が出るものよ」
「もちろんです。でも、そうじゃないんです」
「?」
「反対意見をもらえたり、自分の間違いを指摘してもらえるのは嬉しいんです」
「うん」
「でも僕は、自分の書き方が悪いせいで嫌な気持ちにさせたヒトがいるということを、全く分かっていなくって…」
「…」
「僕は、ヒトを不快にさせるために記事を書いてるわけじゃないんです。それなのに、不用意にヒトを不快にさせてしまうことがある。その愚かさが、とても悲しくって;」
英語はよく分からないので、単語を1つ1つ探しながら話していた。僕の声はゆっくりとしたスピードだったし、抑揚も平静になるようにつとめていた。けれど。それでも僕は、目から流れ出る涙を止めることができなかった。悪いな、と思う。

「ねえ、コウモリ君」
諭すようにパスカリーヌは言った。
「完璧なんてないんだよ。科学だって完璧じゃないのよ(笑) これまでに検証され積み重ねられてきた人類の知恵のカタマリなのに、それでも、100%正しいとは言えない仮説の集合に過ぎないの」
「はい、そう思います」
「Perfection doesn't exist.」
「I think so, too.」 but…そう言いかけたけれど、何もコトバにならなかった。

でも僕の記事も僕自身も、完璧なんてものには程遠い、あまりにも酷いものでしかなくて、どれだけ自分はバカで傲慢な人間なんだろうって思っているだけなんです、完璧とかそんな高い次元の話じゃなくて、本当に低い低い次元の話でしかなくて。

そういう思いが整理されていなくて止まらなくなりそうだったせいかもしれないし、翻訳する英語が見つからなかったせいかもしれないし、これ以上パスカリーヌに気を遣わせるような事を言うべきでないと思ったせいかもしれない。今となっては、そのときの自分の心情も、どこかに消えたハズのコトバも、見つからないしよく分からない。

「Thank you. Merci…メルシーボク.」
それだけを言って、僕は静かに下を向き、見つからないようにそっと肩で頬を拭った。
車内には、フランスに着いて初めて見る太陽の光が差し込んでいた。

余談

ちなみに、僕は小説があまり好きじゃない。その中でも、「情景描写」というものが特に好きになれない。ウソくさいからだ。けれどもあのとき、ウソみたいな太陽の気紛れが本当にあって、「情景描写かよ!」と心の中でツッコミながらも、その光に嬉しくて驚いたことを覚えている。ただし、僕が嬉しかった理由は、太陽が好きとかそんなんではなくて(コウモリが太陽を好きなハズがない)、太陽の光で時差ボケを治せると思ったからだ。

とはいえ、パスカリーヌの一言を境にして、僕がグロッキーな状態を脱したのは確かだった。

「Perfection doesn't exist.」(完璧なんてないんだよ)

パスカリーヌさん。娘の彼氏が、高卒で仕事もなく不安と焦燥の中で未熟さに落ち込んでいるときにかけるコトバとして、あなたのコトバは「完璧」だった。僕は今でも、あのときのあなたのコトバにとても感謝している。ありがとうございます。


つづき。
フランス滞在記⑥パリ  →その日のエッフェル塔、超えぐれてました。

これまで。
フランス滞在記①出発前 →旅のミッションと若年失業率
フランス滞在記②飛行機 →日本のコミュニケーションの前提
フランス滞在記③電車  →日本の治安は素晴らしい・殺人発生率 
フランス滞在記④スーパー→日本の労働、やっぱり変!?・労働時間

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